大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和34年(レ)13号 判決 1960年7月08日

控訴人 井口博

右訴訟代理人弁護士 亀甲源蔵

被控訴人 崎浦リツ子

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人は被控訴人に対し金二六、三九二円四八銭を支払え。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じこれを五分し、その二を被控訴人の負担とし、その余は控訴人の負担とする。

この判決は第二項に限りかりに執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

被控訴人控訴人間で被控訴人主張の消費貸借契約(ただし債権額を除く)を締結したことについては当事者間に争いがない。

控訴人は、右契約に際し金一五、〇〇〇円を天引されたから右消費貸借は元金八五、〇〇〇円の限度において成立した旨抗争するので、この点についてしらべてみると、被控訴人が昭和三〇年一一月(日時を除く)控訴人から現金一四、〇〇〇円の交付を受けたことについては当事者間に争いがなく、しかして、成立に争いのない甲第一号証、同乙第一号証、証人井口ヨシの証言、控訴本人ならびに被控訴本人の各尋問の結果を総合すると、被控訴人は、昭和三〇年一一月、控訴人から金員の借用方を申し込まれたので、これに応じ、持つていた株券等を担保に供して三菱銀行から金員を借り受け、同月二八日、控訴人を代理して来た同人の妻訴外井口ヨシに対し、現金一〇〇、〇〇〇円を弁済期昭和三一年一月二七日、利息および期限後の損害金を月七分の約で貸し付けることとし、その際利息前払名義に金一四、〇〇〇円、足代名義に現金一、〇〇〇円合計金一五、〇〇〇円を控除した残金八五、〇〇〇円を同女に交付したことが認められる。被控訴本人尋問の結果中前認定に反する部分は直ちに採用しがたい。しかして、前認定の金一、〇〇〇円は債権者の受けるべき元本以外の金銭であるから、利息制限法第三条により利息とみなされるので、結局被控訴人は利息前払名義に合計金一五、〇〇〇円を天引したことになる。そこで、債務者たる控訴人の受領額金八五、〇〇〇円を元本として、同法第二条、第一条第一項に基きこれを計算すると(銭未満は四捨五入する。以下同じ)、元本は金八七、八三三円三三銭となることが明らかである。したがつて、本件消費貸借は元金八七、八三三円三三銭の限度において、成立したものというべきである。

次に、控訴人主張の(一)の事実について考えるに、まず、控訴人は利息損害金として合計金六三、〇〇〇円を支払つたと抗争し、被控訴人は右金員中には別紙入金表(一)記載の(7)の金七、〇〇〇円が含まれていると主張するので、この点についてしらべてみると、成立に争いのない乙第九号証、証人井口ヨシの証言、控訴本人ならびに被控訴本人の各尋問の結果を総合すると、控訴人は被控訴人に対し、昭和三二年五月二七日までに前記天引された金一五、〇〇〇円を含む利息損害金として合計金六三、〇〇〇円を支払つたこと。別紙入金表(一)記載の(7)の金七、〇〇〇円はその後の昭和三三年四月二三日に支払われたものであることが認められる。被控訴本人尋問の結果中前認定に反する部分は同人の供述を除く右採用の各証拠に照し直ちに採用しがたい。したがつて、被控訴人の右主張は採用の限りでない。しかして、右金六三、〇〇〇円から前記天引額を控除すると損害金として支払われたのは金四八、〇〇〇円であること明らかであるが、債務者が利息制限法に定める制限を超過した損害金を任意に支払つた場合、その支払の約定は同法第一条第一項、第四条第一項により無効であるから損害金の弁済たる効力を有せず、それは本来債務者に返還されるべきものであるけれども、特に同法第一条第二項、第四条第二項において返還の請求をなし得ない旨を定めているから、元本債権にして存在するならば、右支払額は当然元本に充当されたものと解すべきところ、右損害金の支払時期についてはこれを明確にし得るものがないので、これを前記昭和三二年五月二七日を基準にして、元金八七、八三三円三三銭に対する弁済期日の翌日である昭和三一年一月二八日から昭和三二年五年二七日までの間、同法第一条第一項、第四条第一項に基く年四割の割合で計算すると、その損害金は金四六、八四四円四三銭となり、右支払額からこれを控除した残金一、一五五円五七銭は元本に充当され、結局昭和三二年五月二七日現在において元本は金八六、六七七円七七銭になること明らかである。

次に、控訴人主張のような訴訟が係属し、これが取り下げれらたことについては当事者間に争いなく、しかして証人藤村吉次郎、同井口ヨシの各証言、控訴本人尋問の結果のうちには、控訴人主張のような準消費貸借契約が締結された旨の供述部分があるけれども、該供述部分は、被控訴本人尋問の結果に照し直ちに採用することができず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。したがつて、控訴人の右主張は採用の限りでない。

そこで、進んで、控訴人主張の(二)の事実について考えると、別紙入金表(一)記載の事実のうち(7)の入金を除きその余の入金があつたことおよび同表(一)の(10)、(11)の入金が控訴人主張の強制執行による売得金であることについては、当事者間に争いがなく、しかして同表(一)記載の(7)の金員が昭和三三年四月二三日に支払われたものであること前認定のとおりである。そこで、右入金表(一)記載の(1)ないし(9)の各金員の充当関係を見るに、被控訴本人尋問の結果によれば、該金員は、前記消費貸借の損害金に充当されたことが認められ、証人藤村吉次郎、井口ヨシの各証言、控訴本人尋問の結果中右に反する部分は採用しがたい。そこで、右金員を前記認定の計算方法に基き年四割の割合による損害金、元本の順に充当していくと、同表(一)記載の(9)の昭和三三年六月三〇日現在において、残元金は金二六、三九二円四八銭であることが認められる。したがつて、控訴人は、被控訴人に対し、なお右金二六、三九二円四八銭を支払う義務があるといわざるを得ない。

もつとも、控訴人は、右のほかさらに別紙入金表(一)記載の(10)、(11)の各金員を支払つている旨抗争する。しかして、右金員が本件における原審の仮執行宣言付判決に基く強制執行の売得金であることについては当事者間に争いのないところであるが、仮執行によつて得たる弁済の効力は確定判決に基く場合の如く確定不動のものではないから、その後裁判所が本案判決をするにあたつては右執行の如きはこれを顧慮することなく、請求の当否を判断すべきところ、控訴人が、被控訴人に対し金二六、三九二円四八銭を支払う義務のあること前認定のとおりであるから、右主張は採用の限りでない。

よつて、被控訴人の本訴請求は、控訴人に対し金二六、三九二円四八銭の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却すべく、右請求を全部認容した原判決は一部失当であるからこれを右の限度において変更し、訴訟費用負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九六条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 柳川真佐夫 裁判官 井口源一郎 金子仙太郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例